デザインの風

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#08 デザインと情報とトイレの話

こちらは2023年1月に弊社メールマガジンに掲載された記事の再掲です。

デザインとは情報の見える化である

デザイナーの仕事はラブレターの代筆であると本コラム初回から書いてきたが、同時によく言うのが、デザインとは情報の見える化であるということ。インフォグラフィックスとかデータビジュアライズという言い方もする。データは数字の羅列ではなく、グラフ化するとよくわかるし、企業理念を言葉よりもシンボルマークにすることで覚えられやすくなる。

ティッシュペーパーに木のイラストがプリントされていれば「森の木を切って作ってるんだな、ムダ使いしちゃいけないな」と思わせるし、排水口に魚の絵があれば「この水は海につながっているんだ、生物に悪いものをあまり流しちゃいけないな」と意識させることができる。木や魚あたりは世界共通で通じるシンボルと言えるだろう。全人類共通だがそれぞれに事情が違うシンボルはどうなのかと考えてみた。

最近外出時にトイレがなかなか見つからない

そう思いながら焦ったことがある方もおられるだろう。加齢によりその方のトイレが近くなってきた可能性もあるが、けっしてトイレの数が減っているわけではない。同じ経験をした方はもう気づいているだろうが、その理由は、トイレを示すピクトグラム(マーク)がそれっぽくないものが増えたからだ。

よく見るトイレのマークは、赤いウエストがくびれたスカート姿の女性ぽいマークと、青い肩幅が広くズボン姿の男性ぽいマークがセットで思い浮かぶ。それらが1964年の東京オリンピックの際に、日本の若手デザイナー総動員で作られたという話は有名だ。その後あのマークはJIS規格となり、少しシルエットがアレンジされてUSA規格や、国際標準のISO規格にまでなっているのだ。であればなおさら、ザ・トイレとも言えるあのマークを「もっと普通に表示してくれよ!」と、冷や汗をかきながら心の中で毒づきたくなる。

なぜいろんなトイレのマークができてきたのか

理由の一つはジェンダーフリーの側面。女性が赤で男性が青、女性がスカートで男性がズボンと決めつけるのはどうなのか。LGBTへの配慮から男女のシルエットを半々に組み合わせたマークも使われ始めている。トイレは性認識とは密接な関係があるデリケートな場所である。ゾーン分けは2つでいいのか? そもそも分けること自体が本質の問題ではないのか? などなど、社会としてよく考える必要がある。

意匠性を意識したことによる理由もある。大理石の壁に例のマークをエンボスだけで示したもの、平安時代の姫と殿の絵で区別した高級ホテルのトイレ、阿波踊りが行われる東京・阿佐ヶ谷には女踊りと男踊りのシルエットで示したトイレもあるそうだ。なるほど写真を見ている分には、おしゃれだし面白いと思えるのだが。。。

男女のトイレマークの色を逆にしたらどうなるか

ちなみに男女のマークの赤・青を入れ替えて掲示した実験があるそうだ。日本人の多くは色につられて間違えるが、海外の人はそれほどでもないのだという。
USA規格やISO規格になっているとはいえ、海外では男女の色分けはせず同じ色で示すことが多く色もさまざまだそうだ。そうした事情も踏まえ、訪日外国人を意識した男女で色分けをしないトイレのマークも増えている。ほぼ色分けだけで男女の区別を表すケースもあるが、それだと色弱の人は区別が付きにくいというバリアフリーの側面もあるそうだ。
さまざまな理由や事情を理解しつつも、トイレを探している身になると「もっと、わかりやすくしてよ!」とうめきたい気分になるのだ。

TOKYO 1964からTOKYO 2020までの半世紀強で、日本のトイレマークはしっかり定着したと同時に、だからこそ、グローバリゼーションやジェンダーフリー、バリアフリーといった現代の課題解決にあたって、かえって苦労することになっているのかもしれない。

ユメックス株式会社 西山耕一

ユメックス株式会社
代表取締役 プランニングディレクター/デザイナー

西山耕一

愛媛県久万高原町生まれ。血液型:O。山羊座。動物占い:ペガサス。14歳でグラフィックデザイナーを志し、21歳でデザイナーとしてプロダクションに入社。23歳で独立、30歳でユメックスを設立し現在に至る。元スタッフ10人以上がフリーランスまたは会社を設立し、心強いパーティを形成。お気に入りの言葉は「デザイナーの仕事はラブレターの代筆」。

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