デザインの風

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#09 風のデザイン

こちらは2023年3月に弊社メールマガジンに掲載された記事の再掲です。

今回の「デザインの風」は「風のデザイン」について考えてみる。風(かぜ)ではなく風(ふう)である。

頼まれるとイラッとする「〇〇風」

こんな言葉でデザインを依頼されることがある。「トヨタのエンブレム風のシンボルマーク」「バンクシー風のイラスト」「CanCam風の誌面」・・・。非常にわかりやすい。わかりやすいが、イラっと来るのも正直なところだ。

「なるほど~」とか言って頭をかきながら、内心では思うのだ。「この依頼者の中にはトヨタやバンクシーやCanCamといったベストチョイスがあって、お金とコネがあればそれらをつくったデザイナーに頼みたいところだが、手近のデザイナーでは肩を並べるのはおこがましいとしても、なんちゃってでもいいから似た雰囲気を醸して、それらのブランドと同じファン層に気に留めてもらいたい。「真似にならない範囲で、似た雰囲気で、オリジナリティも出してつくってよ」ってことかい。難しいじゃないか!
日本デザインセンターでも、バンクシー本人でも、ビーワークスでも、頼めばいいじゃん!
え、お金もコネもない? ちゃぶ台返~し!(心の中で)」。

「調」や「流」はよくて、なぜ「風」はイラッ?

〇〇調や〇〇流だと、いろいろある中のひとつの様式や表現技術と捉えることができ、得意不得意はともかく、イラッとくるようなことはない。風は、なぜイラっとくるか。〇〇風を要求されるということは、あんたは〇〇を超えることはできないと評価されているのと同じだ。さらに、クリエイターにとって「真似」や「二番煎じ」のデザインをしろと言われることはプライドに関わる問題だ。

TOKYO2020のエンブレム盗用疑惑で、自らの意思でか指示されてかはわからないが、真似と認識してつくったデザイナーは、問題にされなかったとしても、あの仕事が自分の中で輝くことは一生なかっただろう。逆に、出した答えがたまたま同じだったのなら下を向く必要はない。1+1=2と10÷5=2は、答えは同じ2でも、解いた問題が違うのだ。堂々と出せばいい。そのうえで、似たのがあるからやめようと、選ぶ側や運用する側が判断するのはそれはそれで正しいかもしれない。

そんなイラッとくる仕事は断る! のかといえば

そうではない。弊社Webサイトでは「ご要望には『できません』ではなく『こうすればできます』と(なるべく)答えます」と宣言している。こういう場合は、「ナショナルブランドの品格と、未来の社会に役立つ企業であり続ける信念を、シンボルマークで表したいのですね」「アングラっぽいタッチだけど、ちょっとオシャレで、見る人に考えさせるような絵が欲しいのですね」「初めて訪れた街、思いも寄らぬ楽しい店や、公園や、お気に入りの服たちに出会った気分になる紙面ですね」と言い換えて確認するのだ。自分のためにも。

「風で」と依頼されても

うれしい場合もある。風が、調や流と同じ意味で使われるケースもある。「これをユメックス風にデザインしてください」などと言われると、めちゃくちゃうれしい。
そう言われるためには、こちらからいつも風を吹かしていなければいけない。強い風ではない、独りよがりになってしまうから。ユメックスのデザインは、いつもなんとなく、面白かったり、あったかだったり、ふっと笑えたり、そんな風をほのかに吹かせてきたつもりなのだが、感じていただいているだろうか。

最終回のような文末ですが、もう1回あります。

ユメックス株式会社 西山耕一

ユメックス株式会社
代表取締役 プランニングディレクター/デザイナー

西山耕一

愛媛県久万高原町生まれ。血液型:O。山羊座。動物占い:ペガサス。14歳でグラフィックデザイナーを志し、21歳でデザイナーとしてプロダクションに入社。23歳で独立、30歳でユメックスを設立し現在に至る。元スタッフ10人以上がフリーランスまたは会社を設立し、心強いパーティを形成。お気に入りの言葉は「デザイナーの仕事はラブレターの代筆」。

ユメックス株式会社webサイト

#08 デザインと情報とトイレの話
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#10 風は吹いたか?
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