デザインの風

日本ブロアーが配信するメールマガジン「風のたより」にて連載されているコラムのバックナンバーをご覧いただけます。
最新コラムは、メールマガジンでのみご覧いただけます。ぜひメールマガジンにご登録ください。

コラムバックナンバーは、メールマガジン当時のままで掲載させていただいております。各記事内の情報・名称などは掲載当時のものであることをご留意ください。

#06 デザインと色の話

こちらは2022年11月に弊社メールマガジンに掲載された記事の再掲です。

本コラムの第4回で、プレゼン資料などのデザインを良くする手段の一つとして「写真や図版以外は色を使わずモノクロでがんばってみよう」と書いた。今回はその反対の話から始めてみる。世の中には「色彩検定」という資格すらあるように、色を上手に使えればデザインはさらに輝く。
また、Tiffanyのミントブルー、Googleの赤黄緑青、LINEのグリーンなど企業のブランディングに色の果たす役割は大きい。企業だけでなく、オードリー・春日のピンクのベスト、カズレーザーの真っ赤なジャケットなども成功例の一つだろう。うまく活用したいところだが、色は難しいのである。なぜなら。

あなたの好きな色は?

調査によって日本人の好きな色はまちまちなのだ。男女や年代によっても違うが、突出した人気の色はなく好みが分散している。傾向として言えるのは青が好きという人はどの調査でも比較的上位に来ていること。日本人は赤が好きでアメリカ人は青が好きという話は都市伝説だったのだろうか。女性の各年代で上位にあるピンクが男性では少ないだろうというのは予想通り。意外なのは、男女とも白と黒が上位にあり、トップの場合も少なくない。

白や黒が人気なら、苦労して色なんか使うことはあるまい。と、冒頭に戻ってしまうのである。白と黒はファッションや車、家電などの色として人気の定番で、その印象で選ばれているかもしれない。スポーツ選手が大好きなメダルの色・ゴールドは、一般人が嫌いな色のトップになっている調査もある。それくらい好みは十人十色なのだ。それに加え。

人によって色は違って見える

「このドレスの色は白? ブルー?」論争を憶えているだろうか。そんな昔のことは知らないという方はぜひご検索を。今でも楽しめ勉強になるはずだ。色に携わる仕事をするものとしてはけっこう衝撃的な事件だった。ちなみに筆者は当時も今も「白とゴールド」派だが、スタジオ内では「ブルーと黒」派がやや多く、そんなバカなと、どうすればブルーと黒に見えるのかトライをしてみた。振り返りざまに見たり、目をパチパチさせたり、寄り目にしてみたり。その結果、ピントを合わさずぼんやりと見ながら徐々に遠ざかっていくと、途中で明るい場所にあるブルーと黒のドレスが現れることを体験できた。というように、人によって見えている(感じている)色はまちまちということが世界的に認知されたのだ。

色を感じる網膜の神経細胞の個人差によって、認識や分別できる色の範囲が違うこともわかっている。では、より広い範囲の色をより細かく分別できるのがいいかというとそうでもない。専門学校の同期に極端に目が良い友人がいたが、そいつは、服の表面の繊維や遠くの木々の葉っぱ1枚1枚まで、常にディテールが見えていて、ときどき気持ち悪くて吐きそうになると言っていた。

「もっと明るく」「もっと濃く」の誤解

デザイン案や色校正をクライアントに見せた際に、色について「もっと明るく」という指示が入ることがある。色の勉強をすると基本のきとして「色相」「彩度」「明度」という色の3属性を学ぶ。字からも想像できる通り、もっと明るくということは明度をアップするという理解が正しいはずだ。今の色の明度を最大にすると白、最低にすると黒になる。具体例で示そう。明太子の色について「もっと明るく」という指示だったとする。明度をアップしていくと、明太子色→タラコの色→春日のベストの色→白と遷移していく。仮に春日のベストの色に調整して再提出したとしよう。クライアントは「明るくって言ったじゃん」と怒るのである。クライアントが望んでいたのはカズレーザーのジャケットのような赤だったのだ。あくまでも実話ではなく例えですよ。

この話をすると色の3属性を学んでいない一般の方は、おおむねクライアントの肩を持つのだ。つまり一般の方の認識として「もっと明るく」は「もっと鮮やかに」であり、明度ではなく彩度をアップしなくてはいけない場合が多いのだ。「もっと濃く」も要注意である。ワインレッドの表紙案を「もっと濃く」と言われチョコレート色に変更したのだが、望まれていたのはショッキングピンクだったという、これは実話としてあったことだ。

MS OFFICE系ソフトにおける色

一般の多くの方が文書やプレゼンシートを作成するMS OFFICE系のソフトウェアについて、長年の疑問だったのがフォント周りやカラーパレットなどの標準設定がダサいことだ。かつてアップルCEOのスティーブ・ジョブズが新製品発表会かなんかの折、MSを名指しで「美的センスがない。低いんじゃなくてゼロなんだ」と揶揄したことがあるが、うんうんとうなずいたものである。頑張っても「わかりやすい」がせいぜいで、おしゃれだったりカッコよかったりというものを作るのは難しいだろうと、同情する次第だ。

最近ときどき、Adobe PhotoshopのテレビCMを目にする。われわれにとっては30年来のお付き合いがある画像処理ソフトで、同社のInDesign、Illustratorと合わせてデザイナーの3種の神器と言われてきたソフトウェアだ。一般の人がそういうツールに触れ、色の3属性やトーンカーブなどに理解を深めるのは、色に関してのコミュニケーションエラーが減って良いのではなかろうか。とはいえ、CMを見ながら「そんなに都合よくいく写真ばかりなら苦労しないよ」とつぶやいているのも事実。思い通りにいかない時はいつでもお声がけを。

ユメックス株式会社 西山耕一

ユメックス株式会社
代表取締役 プランニングディレクター/デザイナー

西山耕一

愛媛県久万高原町生まれ。血液型:O。山羊座。動物占い:ペガサス。14歳でグラフィックデザイナーを志し、21歳でデザイナーとしてプロダクションに入社。23歳で独立、30歳でユメックスを設立し現在に至る。元スタッフ10人以上がフリーランスまたは会社を設立し、心強いパーティを形成。お気に入りの言葉は「デザイナーの仕事はラブレターの代筆」。

ユメックス株式会社webサイト

#05 企業のシンボルマークについて
インデックスページに戻る
#07 デザインの料金って、おいくら?
ページの先頭へ戻る