実務で役に立つ人事労務の話

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#10 多様な人材が活躍できる職場づくり

こちらは2021年10月に弊社メールマガジンに掲載された記事の再掲です。

突然ですが、「LGBT」という言葉をご存じでしょうか?

メディアでも取り上げられることが多くなったこの言葉ですが、電通による調査では、LGBTという言葉の浸透率は2015年調査時は37.6%、2018年調査時は68.5%、そして2020年調査では80.1%となり、広く認知されるまでに至っています。

ただ同時に、LGBTとそれ以外の多様なセクシュアリティについて知ってはいるものの、このトピックを他人事と捉えている人が最も多いという調査結果も出ています。

職場で知らない間にSOGIハラ(ソジハラ)の加害者になっていたり、職場環境がセクシュアルマイノリティの人たちにとって働きづらいものになってしまっている可能性があります。
今回は、多様な人材のうち、セクシュアルマイノリティについて取り上げたいと思います。

LGBTQとは

前述のLGBTにQを加えたLGBTQという言葉がセクシュアルマイノリティを表す総称のひとつとして使われることが多くあります。

調査により異なりますが、日本におけるLGBTQ当事者の割合は3~10%とされており、皆さんの職場や周りにも当事者がいる可能性が高いといえます。

SOGIハラ

SOGI」とは、Sexual Orientation and Gender Identityの頭文字をとったもので、「性的指向・性自認」を意味します。

職場においてセクシュアルマイノリティの人たちが悩むことのひとつとして、SOGIハラが挙げられます。
SOGIハラとは、性的指向や性自認に関連して、差別やいじめ、暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせを受けることをいいます。

具体的には、望まない性別での生活の強要(服装、髪型など)や強制異動、採用拒否や解雇など、差別を受けて社会生活上の不利益を被ることです。
当事者を傷つける意図がなくても、普段の何気ない会話の中で差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称を使用することで、当事者が深く傷つくことがあります。セクシュアルマイノリティに関する内容に限ったことではありませんが、多様な人たちが職場で働く現在、周りの人への配慮を忘れずに行動することが求められます。

カミングアウトとアウティング

カミングアウトとは、自身がセクシュアルマイノリティであることを、自発的に他の人に伝えることをいいます。一方で、アウティングとは、ある人がセクシュアルマイノリティであることを本人の承諾なく、また本人が公にしていないのに他の人に知らせることをいいます。

他の人に知らせる、という点では共通ですが、この2つは全く異なりますので注意が必要です。
アウティングは、アウティングされた人の人間関係を破壊する行為とも言えます。
特に注意しなければならないのは、悪気なくアウティングをしているケースです。当事者は自分だけを信頼してカミングアウトしてくれたのかも知れません。自分が聞いた話を他の人にも同じように話しているとは限らないため、絶対に本人の承諾なくして他の人には伝えないこと、このことを意識しなければなりません。

企業としての対応

先ほどセクシュアルマイノリティの人たちの総称を「LGBTQ」とまとめてお伝えしましたが、LGBとTの間には重要な差異があります。(Qはここでは割愛します。)
なぜなら、「LGB」とは性的指向を指す言葉であり、「T」は性自認を指す言葉であることから、当事者の悩みも大きく異なるからです。

例えば、LGB当事者であれば、会社が独自で定めている慶弔休暇や慶弔見舞金、育児休暇や家族手当などについて、同性パートナーや同性パートナーと養育している子については適用の対象とされていないが、これを同性パートナーにも認めてほしい、といった要望があがること等が考えられます。

また、T当事者であれば、更衣室やトイレの使用、健康診断や希望する名前の使用、服装規定やホルモン療法などを受けるための通院、性別適合手術を受けるための入院への配慮を求められることなどが考えられます。

ここではそれぞれの事案への対応についての細かな記載ではなく、取組みの全体像をお伝えします。
セクシュアルマイノリティの人たちがいきいきと働ける職場環境を作るための企業の取組みとしては以下のような項目が挙げられます。

  1. ①方針の明文化、トップからのメッセージ
  2. ②性的指向・性的自認等に基づくハラスメントや差別禁止規定の整備
  3. ③人事・福利厚生制度の改定
  4. ④社内セミナー等の開催
  5. ⑤相談窓口の設置
  6. ⑥ハード面での職場環境の整備
  7. ⑦当事者グループの支援
  8. ⑧採用活動におけるLGBTQへの配慮

取り組むスピードやどの程度の内容まで取り組むかは企業の規模などにより、様々です。
重要なことは、「うちの会社にはセクシュアルマイノリティの当事者はいないから対応は必要ない」と他人事としてスルーしてしまうのではなく、「どの職場にもセクシュアルマイノリティの当事者がいる可能性がある」と自分事として捉えて取組みを検討すること、また、実際に相談があった場合には当事者の声に耳を傾け、『優先順位をつけてできることから一歩ずつ取り組んでいくこと』ではないでしょうか。

これから働き手がどんどん少なくなっていく中、多様な人材がその持てる力を発揮して活躍することが企業の成長には欠かせません。
できることから一歩ずつ、ぜひ取組みをご検討ください!

あすそら社会保険労務士事務所 代表 大野知美

あすそら社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント

大野 知美

IT企業人事部勤務を経て独立。企業人事出身であることから『当事者目線に立った支援』が強み。主に顧問先企業の人事労務相談や就業規則の作成、各所での講演活動等を行っている。
その他、中堅・中小企業の働き方改革や健康経営の推進、女性活躍の推進にも注力している。

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