実務で役に立つ人事労務の話

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#09 職場で求められるパワハラ対策

こちらは2021年9月に弊社メールマガジンに掲載された記事の再掲です。


パワハラ防止対策が義務に

パワハラ防止について規定された「労働施策総合推進法」という法律が中小企業についてもいよいよ令和4年4月1日から施行されます。(大企業については令和2年6月1日に施行済み)

この法律の施行により、パワハラを防止するための雇用管理上の措置を講じることが企業に義務付けられることになります。

会社としてはどのような取り組みを行えばよいのか、そのポイントを解説します。

職場におけるパワハラとは

まず、パワハラの定義を確認しておきましょう。 職場におけるパワハラとは、以下の3つの要素をすべて満たすものをいいます。

  1. ①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって
  2. ②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
  3. ③労働者の就業環境が害されること

①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって

「優越的な関係を背景とした言動」というのは、業務を遂行するにあたって、その言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない見込が高いような関係を背景として行われるものをいいます。上司から部下だけでなく、同僚又は部下からの行為についてもパワハラに該当する場合がありますので注意が必要です。


②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

社会通念に照らし、その言動が明らかに業務上必要性のない、又はその態様が相当でないものをいいます。この判断に当たっては、様々な要素(その言動の目的、言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮することが適当とされていますので、個別の事案の判断に当たっては、丁寧な事実確認が必要となります。


③労働者の就業環境が害されること

その言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。 この判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち、同様の状況でその言動を受けた場合に、社会一般の労働者の多くが、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当とされています。受けた側が苦痛と思えば即パワハラになるわけではないので注意が必要です。

また、パワハラについては以下6類型が示されていますが、これはあくまでも類型であり、これらに該当しない場合にはパワハラに該当しない、ということではないのでご注意ください。

  1. ①身体的な攻撃
  2. ②精神的な攻撃
  3. ③人間関係からの切り離し
  4. ④過大な要求
  5. ⑤過小な要求
  6. ⑥個の侵害

尚、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワハラには該当しません。

パワハラを意識しすぎて管理職が必要な指示や指導をしない、という状況になるのは望ましくありません。後でも述べますが、管理職に対して、どこまでが適正な指導でどこからがパワハラに該当する可能性があるのか、話し合ったり、理解を深めるような機会を設けることが良いでしょう。

企業が取り組むべきことは?

パワハラ防止に関する指針によると、以下の措置を講じなければならない(=義務)とされています。

  1. ①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
  2. ②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
  3. ③職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
  4. ④相談者・行為者のプライバシー保護のための必要な措置を講ずること、パワハラの相談等をした労働者に対する不利益取扱いの禁止

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発

パワハラを含むハラスメントを絶対に許さないという会社の方針を明確にします。

  • ・経営トップによる、パワハラ禁止についてのメッセージ発信
  • ・就業規則等へのパワハラを行ってはならない旨の方針の規定、周知
  • ・社内報、社内ホームページ等、広報・啓発のための資料にパワハラを行ってはならない旨の方針を記載し、配布する
  • ・パワハラの相談をしたことや事実関係の確認に協力してことを理由に不利益な取扱いをされないことについて就業規則や文書で周知

など

②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

相談窓口担当者をあらかじめ定め、労働者へ周知します。この相談窓口は、セクハラ・マタハラなど、ほかのハラスメントも含めて一元的に相談できる窓口とすることが望ましいです。

  • ・相談窓口の担当者を定め、社内ホームページや通達文などで周知する
  • ・相談窓口の担当者が、相談に対し適切に対応できるようマニュアル整備や研修を行う

など

③職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応

実際にパワハラ相談があった場合には、事実関係を迅速・正確に確認し、その事実をもとに適正な対処を行うことが必要です。以下のような対応を検討し、状況に応じて実施することが望ましいでしょう。

  • ・行為者への懲戒処分
  • ・行為者への指導監督上の措置(改善指導、外部研修受講、レポート提出 など)
  • ・職場環境上の措置(席の配置換え、上級管理職による見回り など)
  • ・人事上の措置(配置転換、異動 など)
  • ・人間関係上の措置(行為者から被害者への謝罪 など)
  • ・被害回復措置(被害者の心身の回復のためのカウンセリング など)

また、パワハラが起きてしまった場合には、再発防止のために改めて職場におけるパワハラに関する方針を周知・啓発するなどの措置を行うことも重要です。

その他の望ましい取り組み

その他の望ましい取り組みとしては以下が挙げられます。


●パワハラの本質を知るための教育研修を実施する。

パワハラは個の人格の尊厳に対する意識の欠如から起こるものと考えられます。「なぜパワハラが起こるのか」、「パワハラとは何か」、その本質を理解するための教育機会を設けることが望ましいです。


●管理職のマネジメントスキルを磨く

管理職のマネジメントスキルを向上させることも重要です。 また、日々の部下とのやりとりの中では、管理職は聞き上手であること、叱り方に気を付けることが重要です。


●コミュニケーションの活性化

コミュニケーションの活性化 ある調査結果によると、パワハラが発生している職場の特徴として「上司と部下のコミュニケーションが少ない」ということがトップに来ています。1on1ミーティングの実施や相談しやすい職場環境の醸成、オンラインでも参加できるイベントの開催など、コミュニケーションの機会を増やすことがパワハラ防止にもつながります。


パワハラは当事者だけでなく、そこで働く人たちの成長・能力発揮を阻害し、さらにチーム力の低下や人材の流出など、会社の成長にもマイナスの影響を与えます。皆が気持ちよくいきいきと働けるように、パワハラ防止のための取り組みを早めにスタートさせましょう!

あすそら社会保険労務士事務所 代表 大野知美

あすそら社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント

大野 知美

IT企業人事部勤務を経て独立。企業人事出身であることから『当事者目線に立った支援』が強み。主に顧問先企業の人事労務相談や就業規則の作成、各所での講演活動等を行っている。
その他、中堅・中小企業の働き方改革や健康経営の推進、女性活躍の推進にも注力している。

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