実務で役に立つ人事労務の話

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#05 同一労働同一賃金とは?

こちらは2021年5月に弊社メールマガジンに掲載された記事の再掲です。

そもそも“同一労働同一賃金”って何?

「同一労働同一賃金」が始まったって聞くけど、具体的にはどんな内容で、会社としてはどんなことをすれば良いんだろう?
「同一労働同一賃金」という言葉が取り上げられるようになって久しいですが、このような疑問をお持ちの方もまだいらっしゃることと思います。

そもそも、なぜ同一労働同一賃金が導入されたのかという目的ですが、これは、同一企業におけるいわゆる正規社員(無期雇用フルタイムで働く人)と非正規社員(有期雇用で働く契約社員、パートタイマー、派遣社員)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

簡単に言えば、仕事の内容や役割等が全く同じならば、正規社員⇔非正規社員間で待遇を同じにしましょう(均等待遇)、仕事の内容や役割等に違いがあるのであれば、その違いに応じたバランスの取れた待遇にしましょう(均衡待遇)、という内容になります。
ごく当たり前の内容ですが、残念ながら我が国においてはこれがまだ多くの企業で実現できていない状況なのです。

均衡待遇・均等待遇について盛り込んだ『パートタイム・有期雇用労働法』という法律が、大企業については2020年4月1日から、中小企業については2021年4月1日から施行されました。

このように、「同一労働同一賃金」という言葉は、法律名や法律用語等ではなく、均衡待遇・均等待遇を実現するためのスローガン的な言葉として使用されているのです。

すでに全ての規模の企業で『パートタイム・有期雇用労働法』が施行されていますが、具体的な対応はまだ、という企業も多いのではないでしょうか。
今回は、この概要と、主に対応するべき事項について、簡単に取り上げてご説明します。

企業に求められる主な対応①

企業に求められる主な対応の1つめは、『不合理な待遇差の禁止(均衡・均等待遇)』です。
『待遇』と聞くと賃金のイメージが強いかも知れませんが、この待遇には賃金だけでなく、例えば休憩室や食堂等の施設の利用や教育訓練に関すること等も含まれます。

前述の通り、仕事の内容や役割等が全く同じであるのならば、正規社員⇔非正規社員間で待遇を同じにしましょう(均等待遇)、仕事の内容や役割等に違いがあるのであれば、その違いに応じたバランスの取れた待遇にしましょう(均衡待遇)、ということが求められているわけです。

仕事の内容や役割等については、正確には『職務の内容(業務の内容+責任の程度)、職務の内容・配置の変更の範囲(人材活用のしくみ)等』が同じか、どの程度違いがあるのかで判断されることになります。

対応がまだこれからということであれば、まず正規社員⇔非正規社員間で待遇に差があるかどうかを、就業規則や賃金規程等を確認しながら一覧に書き出して、整理してみるとよいでしょう。
そのうえで、待遇に差があるのであれば、待遇ごとになぜその違いを設けているのか、「不合理ではない」と説明ができるものなのかどうかを確認・整理してみましょう。

尚、これはあくまで正規社員⇔非正規社員間の待遇の差を見るものですので、例えば正規社員間における待遇の差については、この法律の範疇ではない、ということになります。

企業に求められる主な対応②

企業に求められる主な対応の2つめは、『待遇に関する説明』です。
非正規社員は、会社に対し、正規社員との待遇差の内容や理由等について、説明を求めることができます。
説明のタイミングは次の2つです。

①雇い入れ時・労働契約の更新時

雇い入れ時・労働契約の更新時に、非正規社員に対し雇用管理上の措置の内容(賃金、教育訓練、福利厚生施設の利用、正社員転換の措置等)に関する説明をしなければなりません。

具体的な説明内容としては、例えば、賃金制度はどのようなものになっているか、どの福利厚生施設が利用できるか、どのような教育訓練があるか等になります。
これについては、今までも雇い入れ時の面談や契約更新時の面談で説明されているケースが多いのではないでしょうか。

②非正規社員から求めがあった時

雇い入れ時・労働契約の更新時以外にも、非正規社員から求めがあった場合、正規社員との間の待遇差の内容・理由等を説明しなければなりません。

これはあくまで説明を求められた場合に限られますが、例えば、比較対象となる正規社員との間で待遇の決定基準に違いがあるか、違う場合はどのように違うのか、なぜ違うのか、等についての説明になります。
このため、待遇差についてきちんと理由を説明できるようにあらかじめ整理をしておく必要があります。文書化してまとめておくと、説明を求められたときに慌てることなく対応することができるでしょう。
尚、「比較対象となる正規社員」とは、『職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲等』が非正規社員の『職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲等』と最も近いと会社側が判断する正規社員になります。

また、説明を求めた非正規社員に対して、不利益な取扱いをしないよう注意が必要です。

何から始めればよいか?

ここまでの内容を踏まえて、やるべきことの手順を整理すると次のようになります。



取組み自体をまだ始められていない場合には、まず手順4までの対応を行いましょう。
手順5の待遇差の解消に向けた取組みについては、「同一労働同一賃金ガイドライン」の内容や判例の動向等を見ながら、検討を行うことをお勧めします。
この他、厚生労働省のサイト『同一労働同一賃金特集ページ』に多数の資料が掲載されていますので、これらを参考にされたり、自社での対応が難しい場合には、専門家の力を借りて進めるのもよろしいのではないでしょうか。

今後も、企業にとって人材はますます貴重な“財産”=“人財”であることは間違いありません。
多様な人財がモチベーション高く、いきいきとその力を発揮してもらうためにも、ぜひ貴社で働く皆さんの待遇について、今一度ご確認をお願いします。

あすそら社会保険労務士事務所 代表 大野知美

あすそら社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士・キャリアコンサルタント

大野 知美

IT企業人事部勤務を経て独立。企業人事出身であることから『当事者目線に立った支援』が強み。主に顧問先企業の人事労務相談や就業規則の作成、各所での講演活動等を行っている。
その他、中堅・中小企業の働き方改革や健康経営の推進、女性活躍の推進にも注力している。

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